近年は研究の内容が高度になってきただけでなく、研究を実施する前の準備段階でも、そして解析を行う段階においても、非常に高度なことを要求されます。
研究者が一人で頑張っても限界があります。そこで、色々なことを分業で進めていくことを考えてみてはいかがでしょうか?
今回は、研究実施~論文作成に至る過程を分業することをテーマにお話ししたいと思います。
1.人それぞれの得意分野を生かす
どんな人であっても、持っている能力は一様ではありません。それぞれ得意なことがあるはずです。それを活かさない手はありません。
次のような人材がいるかもしれません。
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1.アイデアを出すのが得意な人
研究においては着想が最も重要です。
着想は「誰も気が付かなかったこと」が話題にのぼりがちですが、突拍子もないことをいくら唱えても誰も見向きもしてくれません。
今の研究のトレンドを的確に押さえる必要があります。
未知のことに挑むということは、すでに知られていることに精通することと同じです。
大きな流れの中で、何が足かせとなって研究が進まなかったのか、正しく理解することが第一歩です。
次に、それを解決するための手立てをどれだけ考えられるか、がカギになります。これまで誰も解決できなかったことに挑むのですから、大変なことです。
解決方法はこれまでの研究の延長にはないかもしれません。とても遠い領域、一見何の関係もないところからヒントを得たりすることがあります。
しかしそれもすでに誰かがやっていることだったりするのです。それを知っているかどうかは、普段どれだけいろいろなことに興味を持ち、アンテナを張っているかにかかっています。
新しい方法に目を付けたらそれに詳しい人につないでもらうこともあります。そういった詳しい人とのディスカッションを通じて具体的な研究に対するイメージを膨らませて、実現につなげることが大切です。
2.科学研究費などを取得するのが得意な人
研究を行うためには資金の獲得は不可欠です。日本学術振興会の科学研究費などが代表的な資金源になると思いますが、申請書類の作成をする必要があります。その申請書類の準備だけで論文を執筆するくらいの労力が必要です。
申請書の書き方も特殊です。毎年のように受理されて資金を獲得している人と、なかなか資金を獲得できない人がいます。
書類の書き方にコツが必要なのです。アイディアを別の人にわかってもらう必要があります。
そういうことができなければ資金を獲得することはできません。
研究費を海外に求める場合もあるかもしれません。その場合には英語で記載する必要があります。(当然、正しい英語で記載する必要がありますので、書き終えた後にはきちんと英文校正に提出することをお勧めします。)
3.臨床の得意な人
医学論文の読者は研究者だけでなく、臨床医も大勢います。研究者の独りよがりな内容では雑誌に掲載してもらうことも難しいでしょう。
臨床のバックグラウンドを持つ人に、研究が持つ意義を整理してもらうとよいでしょう。
そうすることであなたの研究の価値は何倍にもなります。
臨床医から意見をもらうのはどんなときがよいでしょうか?
研究のアイディアを生み出す段階でも、研究費を獲得する段階でも、そして論文作成する段階でも必要、というのが答えになります。
4.データを正確に取得して記載するのが得意な人
医学研究だけでなく、その他の多くの研究において、データの正確性は近年ますます重要視されるようになってきました。
データを正しく記入したり、他の人が入力したデータをチェックしたりする人の役割は非常に重要です。
臨床試験を担当する部門がある施設ならばそういった部門に依頼すればよいのかもしれませんが、そういった人がいなければ自分たちで行わなければなりません。
なお、Electric data capture (EDC)という、電子的な症例登録システムを使うことでデータの正確な入力を促すような仕組みを最初に設定することもできます。
入力するデータの入力規則をあらかじめ設定したり、入力したデータ同士の関係から矛盾や齟齬が生じないような仕組みを整えたりといろいろなことができます。
5.統計処理が得意な人
集めてきたデータを解析するのも、やはり得意人がいれば任せたいところです。
様々な統計手法が生み出されてそれを正確にcatch upすることはとても難しいことです。
また、間違った統計の使い方をしていることもあります。そこで、統計解析に精通した人に関与してもらうのが良いと思います。
できれば研究を開始する時点で関わってもらうのが良いです。
どのくらいのサンプル数で研究をするのが適切なのか、データの取得方法はどのようにするのか(身長や体重などを連続した数値として得るのか、カテゴリー変数として得るのか、といったこと)、といったところまで細かく相談しておいたほうが後々問題になることが少ないでしょう。
2.他の研究者との共同研究
最後に、他の施設、他の領域との共同研究を積極的に考えるべき、という点を強調したいと思います。
研究アイディアが外に漏れることを恐れて内向きな研究になってしまいがちですが、実際にはそんなことを気にするよりも様々なアイディアをオープンに議論する雰囲気作りに重きを置いた方が良い場合があります。
そんな時、これまで全く知らなかった新しい領域、未知の領域の研究者と知り合いになり、一緒に研究をしてみるとよいと思います。
お互いにアイディア、知識を共有して化学反応が起こしましょう!
まとめ
研究分野がますます細分化していく中で、効率的に研究プロジェクトを動かすためには得意な人に得意なことを任せること、そしてプロジェクト全体を研究代表者はきちんと監督することが大事です。
そして大事なことは、分業化したあとも相互に議論を深めることです。そうすることで研究の内容はさらに深まることでしょう。