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2021 1月

倫理事項を遵守しよう!

1843455_s人を対象とした臨床研究を実施する上では、被験者を保護することが第一優先事項となっています。被験者を保護するために様々な倫理的な観点での取り決めがあり、国際的な標準と国内の規制に則って研究を行う必要があります。

今回は研究者が守るべき倫理について説明したいと思います。

 

1.人間を対象とする医学研究の倫理的原則 ーヘルシンキ宣言ー

第二次世界大戦中のナチス・ドイツの非人道的な人体実験に対する反省から、世界医師会(World Medical Association, WMA)によって1964年にフィンランドのヘルシンキで採択された倫理原則であり、以後修正を繰り返し今日に至るまで人を対象とした医学研究の倫理的な礎となっています。

この宣言には重要な事項がいくつも盛り込まれていますが、特に重要なポイントが、

  • 個人に対する尊重
  • 自己決定権
  • 研究への参加に関する情報に基づいた決定(インフォームド・コンセント)を行う権利

です。個人の尊重にはプライバシーの保護も含まれ、個人情報の保護が近年では最大の争点の1つとなっています。

医学研究はすべての被験者に対する配慮を推進かつ保証し、その健康と権利を擁護するための倫理基準に従わなければならず、人を対象とするすべての医学研究はヘルシンキ宣言を遵守する必要があります。

 

2.日本における倫理指針

我が国では、人を対象とする研究を実施する際の指針や法が近年やや複雑化していますが、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成26年12月22日 (平成29年2月28日一部改正))」(以下、医学系指針)に基づいて臨床研究を実施するのが基本となっています。内容としては以下の点に集約されます。

  • 研究者が負うべき責務
  • 研究対象者の保護(有害事象への対応、インフォームドコンセント、個人情報保護)
  • 研究の信頼性確保

数年前に起こった研究不正に端を発し、研究倫理の大幅な見直しが行われました。具体的には2017年に医学系指針の内容改訂が行われたことと、臨床研究法が制定されたことです。

まず、医学系指針においては以下のことが追加されました。

  • 1.(特に個人情報に関する)用語の定義の追加・ 見直し
  • 2.インフォームド・コ ンセント等の手続き の見直し
  • 3.第三者提供時の記録 の作成等の追加
  • 4.海外への試料・情報 の提供手続きの追加
  • 5.匿名加工情報等の取 扱手続きの追加
  • 6.研究に関する試料・情報等の保管

この改定では個人情報の取り扱いが大きく問題になりました。これまで単独で個人を特定できるような情報のみを個人情報として捉えていたのですが、病歴も含めて個人情報である(具体的には要配慮個人情報)、という考えの基でこれらの情報をしっかり保護しよう、という内容に変わりました。匿名化されていたとしても個人情報であることには変わりがないので、しっかりと保護しましょう、ということで、原則的に本人からの同意を得るようにということになったのです。ただし本人からの同意取得が困難で、公益性の高い医学研究であって被験者に拒否の機会が与えられるときに限っては例外的に本人からの同意はとらなくてもよい、ということになりました。第三者や海外への情報提供について新たに手続きの仕方が盛り込まれたのも、個人情報の保護に関する考えが根底にあります。

そして研究に関する試料・情報の保管に関しても、研究不正が起こらないように研究終了後も情報を保管しておく義務が生じました。具体的には、介入研究に関わる情報等は、研究終了後5年または最終公表後3年のいずれか遅い日まで保管しなければならなくなりました。

そして「臨床研究法」が「企業から資金提供」「未承認・適応外薬」の臨床研究(=特定臨床研究)を規制する目的で制定され、2018年4月より施行されました。前述の医学系指針との大きな違いは、「法律」であること(=違反した場合に罰則がありうる)です。通常の医学系研究とは運用する決まりが異なるため、最初にまず特定臨床研究にあてはまるかどうか、という点を鑑別せねばならない、という点が煩雑です。

 

3.研究計画書の作成について

前述の医学系指針において、「人を対象とした医学系研究を実施(研究計画書を変更して実施する場合を含む。) しようとするときは、あらかじめ研究計画書を作成し、倫理 審査委員会の審査、研究機関の長の許可を受けることが必要」と明記されています。

記載が必要とされる項目を要約すると以下のようなものになります。

  • どんな研究を、誰が、どのデータを使って、どのように行うのか(方法)
  • 研究を実施する正当性(理論的な根拠や意義)
  • 研究対象者が被る利益・不利益
  • 研究対象者に対する侵襲の程度(侵襲あり・軽微な侵襲あり・侵襲なし)
  • 研究対象者の権利保護(インフォームドコンセントな個人情報保護)

より具体的な項目を知りたい方はこちらのリンクを参照してください。(人を対象とする医学系研究に関する倫理指針ガイダンス

そして施設の倫理審査委員会において審査・承認の手続きを踏むことになります。

 

4.インフォームドコンセント

インフォームドコンセントはヘルシンキ宣言にも医学系指針においても明記される研究対象者保護のための重要なコンセプトです。一部の例外を除いて原則研究対象者へのインフォームドコンセントは義務となっています。例外としては、

  • 侵襲がない
  • 介入がない
  • 生体から試料を採取しない

という場合に限られ、また要配慮個人情報を含む場合はこれらの条件があっても原則としては必須です。しかし同意取得が極めて困難な状況(ご本人が死亡している、など)にある場合には、研究内容の公開と本人または代諾者による研究参加への拒否の機会が保証されている場合に限り、オプトアウト(明示的な拒否の意思表示があったときのみ研究対象から外れること)でよいとされます。

 

まとめ

研究を実施する際には必ず研究計画書を作成するのですが、このときに研究対象者の保護を考える必要があります。これは情緒的なものではなく、きちんとした手続きに則って進めていく必要があり、適切に成されない場合には処罰の対象となりますので十分注意が必要です。

また、論文中にも研究倫理についてはしっかりと述べられることが求められます。論文を書き上げて英文校正に出す前に、記載漏れがないかもう一度よく確かめるようにしましょう。

仮説の検証が可能な統計を設定しよう!

1224206_s研究を実施するときに、得られたデータを客観的に評価するときに統計学的に検定を行うことが多いですが、適切な統計手法を選んで実行することが必要です。最低限の生物統計に関する知識が必要といえます。しかし詳しく統計学を学ぶ前に、押さえておきたい最低限のことについて今回は説明してみたいと思います。

 

統計法も研究前に決める

研究計画書を作成するときにサンプルサイズを最初の段階で決めておくことはすでに述べているのですが、統計手法についても研究を行う前に決めておくことが必要です。世の中には様々な統計手法が存在しています。手当たり次第に実施すると少しずつ結果が異なることがあります。

もし最初の段階で指定していない場合には、都合のよい方法を選択してしまう可能性があり、いわゆる「後出しじゃんけん」状態になってしまうことがあります。これでは研究の公平性が担保されません。よってどのような集団にどんな統計手法をどの段階で用いて検定するのかを指定しておくことが重要です。

主に介入を要する研究においてはこのような厳密な方法をとることが一般的です。後ろ向きの観察研究においてはその限りではありませんが、どちらにしても計画段階でどのような統計手法を用いるかについては十分に議論を尽くしておくことが重要です。

最初の段階で統計まで含めて議論しておけば論文の「方法」の部分はもう書くことができます。それだけかけたからと言って英文校正にだすのは請求ですが…。

 

仮説の検証が可能な統計法を用いる

そもそも統計を使う目的というのは、何らかの差を検出するために行うのですが、結果は実質的な差、比べる群内のばらつき、サンプル数に依存します。つまり数を増やせば非常に小さな差であっても統計学的には有意になってしまう可能性があるということが言えます。

自分が示そうと思っている仮説が正しく検証できているかどうかは、実質的な差がきちんと存在していて初めて成立するものであるはずです。

サンプルサイズが少なかった

という言い訳を時々耳にすることがありますが、それはどんな研究結果においても大なり小なり成立しうることですので、結果が有意でなかったときにはサンプルサイズが小さかったことだけで説明しようとしてしまうのは乱暴なのです。

また適切な統計モデルを選択するということと正しい前提に基づいたモデルのあてはめ、というのも重要です。

線形の関係(Yに対するXの関係が直線的であること。Xが1増えるとYがいくつ増える、というのが正比例するもの)になっていなければ成立しないモデルであるにもかかわらず、YとXの関係がU字型の相関を持っている、などの状況ではうまく当てはまりません。

また、「比例ハザードモデル」という医学研究でよくつかわれる統計モデルは、二つの曝露状態におけるハザード関数が平行であることが前提として必要です。そういった前提が崩れてしまったときの対処方法も含めて計画しておく必要があります。

このように、統計モデルの最低限の前提を確認することは非常に重要です。

 

エフェクトサイズと信頼区間について

エフェクトサイズ、というのは実質的な効果量のことを指します。何かの治療が、何もしなかった場合に比べてどのくらい効果があるのか、あるいは何かの危険因子がある場合、ない場合と比べてどのくらい危険性があがるのか、ということを示します。多くの場合は発生率の比をとるか差をとることになります。

そして真実の値というのはサンプル集団に応じて微妙に変化します。この真実の値のばらつき具合を表現したものが信頼区間ということになります。統計モデルでは一つの効果量である点推定値と信頼区間(通常は95%信頼区間)が出力されます。

比で効果の比較を行った場合には、発生率比が大きくなるときは信頼区間の下限が1を超えていると有意である、と言えます。逆に発生率比が下回るときには信頼区間の上限が1を下回るときに有意であると判断されます。いずれにしても信頼区間の中に1を含まないことで統計学的な有意性を示すことができます。

差で効果の比較を行った場合には0を信頼区間の中に含まないことで統計学的な有意性を示すことができます。

さらに効果の差の逆数、特に発生率の引き算の逆数を取ることでNumber needed to treat(=何人に治療薬を使うとイベントの発生を防ぐことができるか)を求めることができます。これも効果の大きさを表現するのに便利な指標になります。

重要なのは、単にP値のみに着目するのではなく、効果の大きさ自体に着目するということです。

 

まとめ

このように、研究を実施することを決めた後には研究計画の中に統計学的な検討を加えることが必須です。統計を考慮に入れることで前もって症例数を見積もることができ、また効果の推定を正しく行うことができます。最初の段階で計画しておくことが重要ということになります。

効果の推定は比や差で表現しますが、信頼区間がそれぞれ1,0を跨がないことで統計学的な有意性を示すことができます。

重要なのは、統計学的に有意であるかどうかだけではなく、効果の大きさを表現すること、そのために点推定値と信頼区間を評価することが重要です。研究計画段階でそのような統計学的な検討をしっかり行っておくことが重要です。