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倫理事項を遵守しよう!

倫理事項を遵守しよう!

1843455_s人を対象とした臨床研究を実施する上では、被験者を保護することが第一優先事項となっています。被験者を保護するために様々な倫理的な観点での取り決めがあり、国際的な標準と国内の規制に則って研究を行う必要があります。

今回は研究者が守るべき倫理について説明したいと思います。

 

1.人間を対象とする医学研究の倫理的原則 ーヘルシンキ宣言ー

第二次世界大戦中のナチス・ドイツの非人道的な人体実験に対する反省から、世界医師会(World Medical Association, WMA)によって1964年にフィンランドのヘルシンキで採択された倫理原則であり、以後修正を繰り返し今日に至るまで人を対象とした医学研究の倫理的な礎となっています。

この宣言には重要な事項がいくつも盛り込まれていますが、特に重要なポイントが、

  • 個人に対する尊重
  • 自己決定権
  • 研究への参加に関する情報に基づいた決定(インフォームド・コンセント)を行う権利

です。個人の尊重にはプライバシーの保護も含まれ、個人情報の保護が近年では最大の争点の1つとなっています。

医学研究はすべての被験者に対する配慮を推進かつ保証し、その健康と権利を擁護するための倫理基準に従わなければならず、人を対象とするすべての医学研究はヘルシンキ宣言を遵守する必要があります。

 

2.日本における倫理指針

我が国では、人を対象とする研究を実施する際の指針や法が近年やや複雑化していますが、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成26年12月22日 (平成29年2月28日一部改正))」(以下、医学系指針)に基づいて臨床研究を実施するのが基本となっています。内容としては以下の点に集約されます。

  • 研究者が負うべき責務
  • 研究対象者の保護(有害事象への対応、インフォームドコンセント、個人情報保護)
  • 研究の信頼性確保

数年前に起こった研究不正に端を発し、研究倫理の大幅な見直しが行われました。具体的には2017年に医学系指針の内容改訂が行われたことと、臨床研究法が制定されたことです。

まず、医学系指針においては以下のことが追加されました。

  • 1.(特に個人情報に関する)用語の定義の追加・ 見直し
  • 2.インフォームド・コ ンセント等の手続き の見直し
  • 3.第三者提供時の記録 の作成等の追加
  • 4.海外への試料・情報 の提供手続きの追加
  • 5.匿名加工情報等の取 扱手続きの追加
  • 6.研究に関する試料・情報等の保管

この改定では個人情報の取り扱いが大きく問題になりました。これまで単独で個人を特定できるような情報のみを個人情報として捉えていたのですが、病歴も含めて個人情報である(具体的には要配慮個人情報)、という考えの基でこれらの情報をしっかり保護しよう、という内容に変わりました。匿名化されていたとしても個人情報であることには変わりがないので、しっかりと保護しましょう、ということで、原則的に本人からの同意を得るようにということになったのです。ただし本人からの同意取得が困難で、公益性の高い医学研究であって被験者に拒否の機会が与えられるときに限っては例外的に本人からの同意はとらなくてもよい、ということになりました。第三者や海外への情報提供について新たに手続きの仕方が盛り込まれたのも、個人情報の保護に関する考えが根底にあります。

そして研究に関する試料・情報の保管に関しても、研究不正が起こらないように研究終了後も情報を保管しておく義務が生じました。具体的には、介入研究に関わる情報等は、研究終了後5年または最終公表後3年のいずれか遅い日まで保管しなければならなくなりました。

そして「臨床研究法」が「企業から資金提供」「未承認・適応外薬」の臨床研究(=特定臨床研究)を規制する目的で制定され、2018年4月より施行されました。前述の医学系指針との大きな違いは、「法律」であること(=違反した場合に罰則がありうる)です。通常の医学系研究とは運用する決まりが異なるため、最初にまず特定臨床研究にあてはまるかどうか、という点を鑑別せねばならない、という点が煩雑です。

 

3.研究計画書の作成について

前述の医学系指針において、「人を対象とした医学系研究を実施(研究計画書を変更して実施する場合を含む。) しようとするときは、あらかじめ研究計画書を作成し、倫理 審査委員会の審査、研究機関の長の許可を受けることが必要」と明記されています。

記載が必要とされる項目を要約すると以下のようなものになります。

  • どんな研究を、誰が、どのデータを使って、どのように行うのか(方法)
  • 研究を実施する正当性(理論的な根拠や意義)
  • 研究対象者が被る利益・不利益
  • 研究対象者に対する侵襲の程度(侵襲あり・軽微な侵襲あり・侵襲なし)
  • 研究対象者の権利保護(インフォームドコンセントな個人情報保護)

より具体的な項目を知りたい方はこちらのリンクを参照してください。(人を対象とする医学系研究に関する倫理指針ガイダンス

そして施設の倫理審査委員会において審査・承認の手続きを踏むことになります。

 

4.インフォームドコンセント

インフォームドコンセントはヘルシンキ宣言にも医学系指針においても明記される研究対象者保護のための重要なコンセプトです。一部の例外を除いて原則研究対象者へのインフォームドコンセントは義務となっています。例外としては、

  • 侵襲がない
  • 介入がない
  • 生体から試料を採取しない

という場合に限られ、また要配慮個人情報を含む場合はこれらの条件があっても原則としては必須です。しかし同意取得が極めて困難な状況(ご本人が死亡している、など)にある場合には、研究内容の公開と本人または代諾者による研究参加への拒否の機会が保証されている場合に限り、オプトアウト(明示的な拒否の意思表示があったときのみ研究対象から外れること)でよいとされます。

 

まとめ

研究を実施する際には必ず研究計画書を作成するのですが、このときに研究対象者の保護を考える必要があります。これは情緒的なものではなく、きちんとした手続きに則って進めていく必要があり、適切に成されない場合には処罰の対象となりますので十分注意が必要です。

また、論文中にも研究倫理についてはしっかりと述べられることが求められます。論文を書き上げて英文校正に出す前に、記載漏れがないかもう一度よく確かめるようにしましょう。