論文執筆はとてつもない労力が必要ですが、年間に何十本もの論文執筆をこなす人がいます。そして書き慣れている「達人」たちは、文章が安定していて読みやすいという特徴があります。今回は、そんな論文執筆の達人がどのように上達させてきたかについてのお話をしたいと思います。
1.まずは書くことに慣れる
言うまでも無く、論文の達人たちは、数多くの論文を書いています。達人だからたくさん書くことができることは間違いありませんが、最初からたくさん書けたわけではありません。
論文を書くことを通じて達人になっていったのです。
しかしただ闇雲に論文を書くだけではありません。きちんとセオリーに基づいて論文を執筆していくことを繰り返した結果なのです。
別の機会でも掲載していましたが、論文の核となるのは、PECOです。つまり、Patients / Exposure / Comparison / Outcome を意識します。
Introduction(緒言)では、①わかっていること、②わかっていないこと、③これから調べること(目的)の順番にまとめていきます。
Methods(方法)では、PECOの定義を順番にしていくことを意識してください。
Results(結果)は図表を軸にまとめるようにするとよいでしょう。
Discussion(考察)では、研究結果のサマリー、既報との比較、メカニズムに関する考察、研究の限界、そして最後にまとめを述べます。
このような原則に則って論文を書くということを確立させることが重要です。
2.他人に論文を読んでもらう
折角書いた論文ですので、投稿する前に誰かに読んでもらうようにしてください。同僚、上司、時には後輩にも読んでもらうといいでしょう。
そして、読みづらかったところや、わかりにくかったところなどを遠慮なく言ってもらいましょう。
英文校正の前に客観的に誰かの意見を聞いておくことで、曖昧な部分、意味が通りにくい部分を明らかにすることができますので、必ず行っておきたいステップです。
他人からの批判というのは気持ちのよいものではありませんが、より良い論文をつくるためですので、しっかりと批判に耳を貸すようにしてください。
ここで失礼な態度をとると二度と批判的に意見をくれなくなってしまうかもしれませんので、お願いするときには失礼のないようにしたいものです。
3.学会抄録作成時に論文を書き終える
論文執筆のタイミングは、理想的には学会抄録の作成と同時くらいがちょうどよいです。研究計画を作成する時点でイントロダクションと方法を書くことは可能ですので、その時点でコンセプトを固めましょう。
研究結果が出たところで学会発表をするわけですので、そこで結果と考察が完成できるはずです。
結果をまとめる際に、図表を軸に記載をする、と前述していますが、そのような構成を考える絶好のタイミングが学会発表の時なのです。
もっとも、途中段階の結果のみを発表する場合もありますので、その場合には論文作成に十分なデータとはいえないかもしれませんが。
しかしその場合であっても途中までの結果を文章にしておくようにするとよいでしょう。論文作成はとにかく労力がかかりますので、毎日少しずつ取り組むようにするということも重要です。
毎日1行でも構いませんので、文章を書くのです。そうすると、論文の内容が頭から消えることはなく、確実に前進することになります。
4.投稿する雑誌の “好み” に合わせて書く
投稿する雑誌の”好み”というものを把握することは意外と重要です。
編集部が掲載する論文を採択する際に、選ばれやすいトピック、分野などが存在していることは間違いないと思われます。
結果や着想を重視するジャーナルなのか、方法論にこだわった方がよいのか、そのあたりも記載に影響してきます。
5.論文はできるだけ短く書く ー型どおりに書くー
論文はだらだらと思いついたことを書くのではなく、意味のあるまとまりを先につくって、それを適度に肉付けしながら作っていきます。
大まかな骨組みを作ることが最初のステップです。
そして、必要な情報を過不足無く記載していくことが重要です。
そのためにも、上記のような論文記載の「型」のようなものを自分の中に確立しておくとよいでしょう。
6.自分にあった研究をする
最後のポイントとしては、やはり自分の得意分野や、自分の主張に沿って研究を実施することが重要です。
仮説を立ててそれを検証することが研究の基本の流れだからです。
たとえ事前に立てた仮説と異なる結果がでたとしてもそれは同じ事です。立てた仮説と異なる結果が出た理由をしらべることが次の研究につながります。決して結果を都合よく歪めてはなりません。
まとめ
論文執筆の上達のコツについて説明させていただきました。
論文構成を事前に設定する(=型を作る)こと、他人の意見に耳を傾ける、タイミングよく書き始める、少しずつでもよいから書き続けることです。
そして数多くの論文を書き続けることによって確実に上達することでしょう。