医師が初めて書く論文とも言われているほど、若手の医師や初めて論文を書く研究者にとって着手しやすいのが、症例報告、つまりケースレポート(case report)です。症例報告の目的は、臨床診療から得られた発見や新しい知識を発表し広く認知してもらうことです。症例報告は医学界に直接大きく貢献できるものであり、ジャーナルに掲載された後は、履歴書にも記載できるのでアドバンテージとなります。今回の記事では、症例報告の書き方及び英文校正での留意点について述べていきます。
症例報告で取り扱われる内容
珍しい臨床例や未知の病態や合併症などが症例報告でよく取り扱われています。診断や治療において新しい知見が得られるなど、過去に症例報告で出ておらず、医療従事者に知られていない事柄を伝えることが症例報告の目的です。つまり、医学界で共有されるべき内容を取り扱うのが基本です。珍しい臨床例や合併症の他に、新薬を投与した際の経過を含めた使用例と、投薬の副作用もよく取り上げられるトピックのひとつです。そして新しく開発され実行された診断法および治療法なども、症例報告にふさわしい内容です。
症例報告の書き方及び留意点
高い評価を受ける症例報告は、症例の内容と問題点が明確に伝えられており、またそれを一般化するのが可能であるという点が抑えられています。多くの臨床に当てはまるものであり、医学界の従事者に有益な情報をもたらすものです。内容としては珍しい症例や異例の合併症、治療における有害反応を取り上げた症例報告が頻繁に見られます。症例報告の執筆のためには、日々診断や治療において患者の容体や治療における反応に常時注意を払い、小さな変化も見落とさないようにしましょう。 症例報告を執筆するにあたり気をつけるべき点は、症例報告は学術論文であるということです。学術論文にはある程度決まった論文の構成や文体においてルールが存在し、それらに則って執筆しなければいけません。一般的な症例報告の構成は、アブストラクト、イントロダクション、症例(ケース)、考察、そして文献です。他の学術論文同様に、アブストラクトには論文の全体像がわかるように必要な情報全てを過分にならないように記載します。
英文校正での注意点
英文の学術論文はアブストラクトの内容で論文全体の主旨がわかるようにしなければいけないので、英文校正の際、第三者の目から読んでも論文の内容が100%伝わるかどうか吟味し、納得のいくまで書き直しましょう。アブストラクトに加え、英文校正で注意したい点がタイトルの書き方です。まず、英文のタイトルは必ず名詞句にし、決して文章にならないようにします。つまり、「主語」と「述語」からなる文章にせず、ピリオドもつけません。また、症例報告の投稿先が「ケースレポート」のセクションである場合は、タイトルに「A Case Report」と記載する必要もありません。不要なものはそぎ落とし、尚且つ、詳しく曖昧でないタイトルになるようにします。 また、本文の執筆において留意したい点が、患者の描写の仕方です。多くの査読者や研究者は、患者を「case」や「male(男性)/female(女性)」で記述するのを好みません。「case report」は熟語のため「case」が使用されますが、個々人を指す場合は「a man, a woman, a boy, a girl」などを使用するようにします。ちなみに「maleとfemale」が好まれない理由は動物を連想するためです。英文校正の際、患者の記述が一般的に受け入れられているものであり、また統一されていることを必ず確認しましょう。
倫理的要件
症例報告は実際の医療現場での内容ですので、もちろん患者もそこに含まれています。しかし、患者は一人の人間であり、必ずプライバシーが守られなければいけません。症例報告を執筆したい場合、まず患者本人に許可を取る必要があります。同意書を手配し、署名をもらいます。もし患者が未成年者の場合は保護者の署名、そして成人の患者でも自身での判断力がないと考えられる場合は近親者の署名が必要になります。ジャーナルに投稿する際に同意書の提出は必ず求められるものですので、執筆前にあらかじめ用意しておくといいでしょう。 また、注意したい点が、患者から同意を得たとしても、患者の情報を論文の読者に特定されてはならないということです。論文の執筆において患者の匿名性は極めて重要です。個人情報の取り扱いはもとより、患部の写真などを論文に載せる場合は身元が絶対に特定されないようにし、身元がわかるような写真は開示してはいけません。
今回の記事では、症例報告の執筆の方法と留意点、また英文校正時の注意点をお伝えしました。症例報告は世界の医学界に貢献できるものであります。世界の研究者に事例を認知してもらうためには、世界の共通語である英語での執筆を試みてください。また、世界基準の論文を作成するためにも、社会的及び学術的に正しい英語表記、また文体などの体裁を確認し、可能な限り、英語ネイティブの医学専門家に英文校正の依頼をしましょう。