医学学術雑誌には様々な種類の論文が掲載されています。研究内容や新しい知見を記述した原著論文、症例報告(Case Report)、原著論文をまとめた総説(Review Article)、そして巻頭辞もしくはエディトリアル(Editorial)と呼ばれるもの、そして投稿された論文に対して読者が 意見を述べる読者からの投稿(Correspondence)などがあります。今回の記事では、英文で書かれた巻頭辞もしくはエディトリアルと呼ばれる種類の論文について説明していきます。
エディトリアルとは
現在重要視されている問題や、今後大きく議論されるであろうトピックや研究に言及した論文をエディトリアルと呼びます。エディトリアルは誰でも書けるわけではなく、特定の専門分野に精通する人が執筆します。学術雑誌の編集者が書く場合、編集者が直接専門家に依頼する場合、そして専門家が学術雑誌に投稿する場合とがあります。
原著論文や症例報告が現場からの研究内容をまとめ発表しているのに対し、エディトリアルはあくまで現在浮上している問題に言及しており、特定の研究内容を発表しているわけではありません。ただ、掲載された論文の研究内容や研究方法に言及する場合もあります。
エディトリアルの特徴
前述した通り、エディトリアルはあるトピックや問題について執筆者が意見を述べるものであるので、他の論文や症例報告同様に、専門家によって執筆されます。個人の見解を述べていること、過去の研究内容に対して、冷静に分析し批評していることが特徴です。
エディトリアルは一般的な論文に比べて短く、簡潔にかつわかりやすく記述されています。短いものでは2ページほどの長さで、参考文献なども必要最低限に抑えられます。専門用語(jargon)の使用は避けられ、もし用いる場合はその用語の定義も併せて記述する必要があります。つまり、一般の読者が読んでも理解できる文章になっています。
エディトリアルの構成
一般的に、エディトリアルにはアブストラクトなどは必要ありません。最初の段落をイントロダクションとし、最初から筆者が議論したいトピックや問題について言及します。この段落でかならず”thesis”、つまり主旨の表明を書き、筆者の言いたいことを明らかにします。その後、必要な背景知識を記述し、筆者の考えを論拠を必ず入れて説明します。Conclusionでもう一度 “thesis”を述べ、それを展開していきます。ここでは、残された課題なども述べられます。
エディトリアルは専門家によって執筆された論文で、現在の問題や研究方法などについて言及しています。しかし、近年指摘されているのが、エディトリアルを書く人間はただ現在の問題を読者に紹介しているだけで、議論がなされておらず、筆者の意見も曖昧になっているという点です。良いエディトリアルというものは、短い論文の中に一切無駄がなく簡潔で、十分に問題点について背景知識などの情報が入れられており、筆者の考えが明快に述べられています。また、残された課題も的確に隠さずに述べられています。一般の読者が読んでも理解できるよう複雑な専門用語や表現も使われていない洗練された文章です。
エディトリアルの重要さ
英文で論文を書くことを目指している研究者にとって、英文で研究内容や症例報告を読むことはもちろん重要ですが、それと同様にエディトリアルを読むことも大切です。まず、第一に、エディトリアルは短い文章で、一つのトピックについて深く言及されているので、情報が得やすく、現在の医療におけるトレンドなどを知ることができます。また、エディトリアルの英文は端的に、しかし的確に情報や筆者の考えを記述しているので、英語の表現を学ぶ上にも役立ちます。実際に論文を書いたあと英文校正を行うさい、良質の英文と比較し表現などを手直しするとより洗練された論文に仕上がるはずです。
また、エディトリアルを書く重要さとしては、エディトリアルは頻繁に読まれる論文の一つであり、また、ベストエディトリアル賞などを送る学術雑誌もあることから、キャリアアップにも有利になるでしょう。また、エディトリアルの内容が他の論文に引用されることもありますので、実績を残したい人は是非書くことをおすすめします。エディトリアルを投稿する場合は、執筆内容が投稿先の学術雑誌の主旨に合っているか、また何故このエディトリアルをその雑誌に掲載することが利点になるのかを述べた、エディトリアルカバーレターも送付します。エディトリアルとカバーレターを書いたら、専門家などに英文校正を依頼し、英文の間違いなどが一切ないよう十二分に確認しましょう。
最後に
学術雑誌には様々な種類の論文があり、エディトリアルは現在の問題やトレンド、研究内容などに言及した短い論文です。医療のトレンドや研究の批評を手早く入手したい時はエディトリアルを読むのがおすすめです。エディトリアルを執筆する際は、取り上げたいトピックをただ述べるだけでなく、筆者自身の考え、解決法や残されるであろう課題点を簡潔に述べることを心掛けましょう。良質なエディトリアルは、良質な英文で書かれています。英文で研究や症例報告の執筆を目指す人は、ぜひ英文でエディトリアルを読み、英語の向上をはかりましょう。