国内外を問わず、研究の登録を義務付け、研究結果がネガティブな場合であっても公表することを要求する学術雑誌が増えてきており、未登録の研究はアクセプトしないと明記しているジャーナルも多いです。国際的には研究の登録および公表は日本よりも進んでいるのが現状で、登録の義務付けが決められている研究についても明記されているものが多いです。
海外の学術雑誌に研究論文を投稿することを視野に入れている人は、自分の行う研究が登録義務があるのか、また登録の方法や登録先について知っておかなければいけません。
今回の記事では研究の登録について詳述します。
そもそも研究の登録はなぜ必要なのか。
研究の登録が必要な理由は大きく挙げて3つあります。1つ目は科学的論拠の確保です。研究者が臨床研究を行いポジティブな結果が出た場合とネガティブな結果が出た場合、もちろんポジティブな研究結果のほうがより多く学会や学術雑誌などで公表されます。このように、行われた研究すべてではなく、ポジティブな結果が出た優れている研究が公表されることを出版バイアスとよびます。もちろん研究者が良い研究を発表したいという望みがあるのは当然なのですが、一般的に世間はポジティブな研究結果に注目し、学術雑誌などもネガティブな結果を伴った研究よりかは優れている研究を掲載しようと試みます。結果出版バイアスが起こってしまうのです。
出版バイアスによって弊害も生まれます。それは研究者がある治療法や病気などについて統合的に解析を行う場合、公正な解析ができなくなってしまうことです。前述したように、ネガティブな結果を出した研究が公表されず、ポジティブなものだけ公表されてしまうと、他の研究者はどの治療方法だと効果がないのか、またマイナスの効果をもたらすのかが把握できません。つまり、いい側面しか見ずに研究を行っても、正しい治療法や効果、解析結果などを導くことはできず、その上、ネガティブの研究が公にされないため、意味のない治療法も複数の研究機関が行ってしまう可能性があります。ネガティブの研究結果も同じく公表されれば、他の研究者もそれを把握でき、二重・三重に無意味な研究が繰り返されることも避けられます。
2つ目の理由は倫理的な問題によるものです。研究にはもちろん研究対象者、つまり患者も含んで行われます。研究対象となった患者への倫理的配慮をもち、ポジティブであろうがネガティブであろうが結果を世間に公表し医療業界に貢献するために、研究結果の公正な公表が重要です。これはヘルシンキ宣言にも記載されている項目です。ネガティブな結果を出した研究を公表しないということは、似たような研究が他機関でまた行われる可能性もあるということで、その実験の対象とされる患者にとっては不利益でしかありません。このことからも、倫理的な理由において研究の登録と公表の重要性がうかがえます。 最後は、研究参加者の登録の促進です。臨床研究が登録され公表されると、医療従事者のみでなく患者もそのデータにアクセスすることができます。これにより患者もどのような臨床試験が行われているのかが把握でき、結果研究への患者の登録の促進に繋がると信じられています。研究参加者の登録が促進されることで、癌や治療法の確立されていない病気の新たな治療法の発見にもつながり、医療業界にとって大きな貢献となることは言うまでもありません。
登録が必要な研究と登録方法
諸外国には、政府や製薬会社、出版会社、そして学術機関などの機関や団体によって研究の登録を受け付けているシステムが運営されています。各機関によって、登録のタイミングや登録対象研究、利用目的なども異なります。例えば無料で登録されている研究を公表しているのかどうか、登録されている研究を保証するシステムが備わっているのか、電子データ化の可否など様々で、投稿先の医学雑誌の規定と照らし合わせて、研究登録先を決定しなければいけません。医学雑誌編集者国際委員会、通称ICMJEや、British Medical Journalなどが、論文の掲載に関する事項の一つに論文の登録を挙げています。ICMJEの規定によると、登録の対象研究は、研究参加者を伴う前向き研究はすべて当てはまり、登録期限も臨床試験が始まる日にちによって変わります。ICMJEやBritish Medical Journalは研究の登録先についても条件を挙げており、非営利団体による運営で、研究の公表が無料、電子データ化もしており、研究の保証システムを備えていることが必要条件です。雑誌以外にも製薬業界やWHOなどそれぞれが研究の登録に関して条件を挙げています。 英文校正時に論文投稿先の規定と照らし合わせ不備があったと気づいてからは手遅れです。もちろん記述漏れを防ぐために英文校正時にも必ず規定を読み直さなければなりませんが、実験開始前にも必ず熟読し臨床試験に臨みましょう。特に海外の学術雑誌等への論文の発表を視野に入れている人は、規定に研究登録について言及されていないか注意して研究の準備を進める必要があります。