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倫理事項を遵守について

倫理事項を遵守について

症例報告や臨床研究で研究対象者、つまり患者の記載が必要となる場合、その患者のプライバシーを守ることは医療従事者としての最大の責務です。患者が特定できないようにプライバシーを保護しつつ研究を進めるために世界医師会によるヘルシンキ宣言、そして日本国内で定められた倫理指針に従って、研究論文を執筆することが求められます。 今回の記事は、ヘルシンキ宣言について解説し、日本での指針と研究計画書の作成におけるポイントを詳述していきます。

へルシンキ宣言

症例報告や患者を研究対象者として含んだ臨床研究など、医療従事者にとって患者について描写しなければならない論文執筆の機会は少なくありません。その際に重要なのが、1964年にフィンランドのヘルシンキで世界医師会により採択されたヘルシンキ宣言です。これは、第二次世界大戦中のナチスの人体実験の反省をもとに、医学従事者が患者を用いた臨床研究における倫理条件を記述した規範であり、正式名称は「ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則」といいます。1964年以降幾度か訂正・改訂は行われていますが、基本的な原則は五つあります。一つ目は、患者の健康・福利の尊重、二つ目は患者本人の自主的な研究への参加、三つ目はインフォームド・コンセント取得の必要、四つ目は倫理審査委員会の存在、そして最後が常識的な医学研究であるということです。臨床研究の目的は、研究により特定の疾患に対する治療方法や予防、または発症原因を追究し、対象患者のみならずすべての人に対して有益でなければいけません。そのため、臨床研究によって得られる利益が必ず被験者の負担リスクより勝ると認められる場合のみ臨床研究の遂行は可能であり、いずれの場合も被験者の権利と利益が最優先でなければいけません。そして、たとえ被験者の同意のもと研究・実験が行われた場合も、患者のプライバシー、健康、生命を守る責務は医師にのみ存在するものであることも明記されています。さらに、ナチスの人体実験の反省を顧みて制定されたヘルシンキ宣言には、社会的弱者の権利を守ることも記述されており、社会的弱者ではない患者では研究が遂行できないという極めて特別な状況に限ってのみ社会的弱者を対象とした研究が認められることになっています。これはロマ人(ジプシー)やユダヤ人を対象とした人体実験の反省から生まれたものです。この他にも、ヘルシンキ宣言には様々な規定が詳述されています。

日本での指針

ヘルシンキ宣言には医師が国際的規範と自国が制定したヒトを対象とした研究に関する倫理規範や法律を遵守する旨も挙げています。日本には、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」「遺伝子治療臨床研究に関する指針」「再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行令」が制定されており、研究の内容によって適用される指針は異なるので、自分の研究する内容に見合ったものを選び、発表先が指定する倫理条件や指針に従う必要があります。そして学会発表や論文の投稿に関して、倫理審査委員会の承認についても基本的に指示があります。論文や公開されているデータ、また細胞を使用していてもそれが一般的に入手でき、特定の患者の情報が必要でない場合、その研究および論文は倫理審査委員会の承認を必要としません。倫理審査委員会の承認を必要とする研究の代表例は、投薬や未承認の薬の使用、ロボット手術などの適用、そして人体から採取した試料の使用を行ったものです。

研究計画書の作成について

研究計画書には、研究対象者の保護に関して記載することが義務付けられています。ヘルシンキ宣言でも挙げられているように、研究対象者にどのようなリスクや負担が生ずる可能性があるのか、そして生じた場合の対処法を記載します。そして研究対象者の個人情報の機密保護に関する規定と研究結果の開示の規定も述べます。研究内容の結果を公開しても、対象となった患者が特定されることは絶対に起きてはいけません。研究者はそのことを必ず念頭に置き、研究計画書の作成にあたらなければならず、論文の英文校正時も十二分にそれらの項目が明確に記載され、研究対象者の個人情報が漏洩する可能性がないことを確かめましょう。 また、忘れてはいけないのが、インフォームド・コンセントの取得です。インフォームド・コンセントとは、「十分な説明をしたうえでの同意」と日本語には訳されています。ヘルシンキ宣言に、研究に参加する患者の自由意志によるインフォームド・コンセントを取らなければならず、文章での取得が望ましいと書かれています。研究者は、患者が理解できるような説明をし、患者から署名をもらう必要があります。インフォームド・コンセントの取得は大変重要なものですので、取得に至る経緯や取得方法(文章なのか口頭なのか)を明確に記述できているかを英文校正でも必ず確認しましょう。