近年では研究におけるデータの改ざんやねつ造をはじめとする不正行為の問題が指摘されています。研究を行い論文を執筆する研究者は国際的な投稿規定および、投稿先のジャーナルの投稿規定を熟読し、それらの規定に遵守することが求められます。引用の間違いで剽窃行為と疑われたり、二重投稿など意図せず不正行為を働いてしまったり、著者資格を理解せず不正のオーサーシップを持ってしまったりと落とし穴は数多くあります。
今回の記事では、それらの不正行為を回避し、正しく論文をジャーナルに投稿するために欠かせない投稿規定の遵守の重要性について詳述していきます。
投稿規定は全て読む
ジャーナルの投稿規定で定められているものは主に3つあります。まず1つ目は著者と出版社の権利、2つ目は投稿できる記事の種類、そして最後が図表の表し方などを含んだ論文の体裁の規定です。この投稿規定はジャーナルによって異なりますので、投稿先の雑誌が設けている投稿規定を全部熟読し、それに沿って執筆しなければいけません。特に図表の数値の表し方、画像のクオリティ、表の挿入の仕方、引用スタイル、ページ数および文字数、Referenceの書き方など各項目が雑誌ごとに異なっている場合が多いです。特に最初のジャーナルにリジェクトされて別のジャーナルに投稿する際は、また新たな投稿規定を一から読み直し、原稿の訂正を行う作業が不可欠です。論文執筆が終わったら、英文校正の際に再度論文の内容と体裁が投稿先のジャーナルの規定に合っているかどうか確認しましょう。
統一投稿規定について
医学論文執筆には世界共通の統一投稿規定が存在し、ICMJE統一投稿規定と呼ばれています。ICMJEは論文著者および雑誌編集者のためのガイドラインであり、明確で公正な、不正が存在しない論文執筆のための指針です。医学雑誌に論文を掲載する際の研究の実施や報告、編集方法、そして出版などに関して勧告しており、2017年の12月に改訂版が出されたばかりです。この統一投稿規定の目的は、研究における倫理基準について概要を載せ、論文著者や査読者そして雑誌編集者などが偏りのない明確な医学論文を雑誌に掲載できるように導くことです。 執筆者が陥りやすい不正の一つに、不適切なオーサーシップ(著者資格)があります。論文の著者となるのは研究者にとって大きな実績に繋がり、知的貢献を行った人物として評価も上がります。そこで不正な著者資格が与えられないようICMJEは著者資格の基準を明確に提示し、資格を満たさない研究者や協力者は謝辞に記載するよう指示しています。そのほかにも、利益相反の開示、重複出版に関する規定、倫理委員会に関する記述など、論文の不正行為を防ぎ、公正で質の高い論文を出版するための指針を示しています。
論文作成の指針と声明について
研究者が研究の質を保ち論文を執筆できるように、また査読者や編集者が投稿された研究論文の質を吟味できるように、研究者や編集者が論文の質を保つために必要な情報を記載するガイドラインが多く発表されています。ICMJEは研究デザインに関する報告ガイドラインについてEQUATOR ネットワークを参考にするよう勧めています。EQUATOR は、Enhancing the QUAlity and Transparency Of health Researchのことで、「保健医療における研究発表の信頼性と有用性を向上させるために設立された国際的プログラム」と言われています。EQUATORのウェブサイトで、論文執筆者、査読者や編集者が参照にすべき各種報告ガイドラインが無料で提供されていますので、必要に応じたガイドラインを探すことができます。ただし日本語版がないので、英語での検索が必須です。 ガイドラインに加えて、研究の質を高めるために様々な声明も発表されています。臨床試験を行う研究者はCONSORT声明について知っておく必要があるでしょう。CONSORT声明とは、日本語で臨床試験報告に関する統合基準に関する声明の意味で、ランダム化比較試験(randomized controlled trial)の報告の質を管理するための基準のことです。エビデンスに基づく医療研究が世界的な基準となったのがきっかけで、ランダム化比較試験の質を向上することを目的とし、1996年に発表されました。臨床試験を報告する際に含まれるべき項目を記載したチェックリストが各言語に翻訳され、日本語訳は1997年に行われました。ジャーナルに論文を投稿する際は、チェックリストの項目が論文に書かれているかどうかチェックし該当ページの数字をリストに書き、論文とともに提出する必要があります。それに加えて患者の組み入れやランダム割り振り、そして解析などをそれぞれフローチャートに記述しなければいけません。論文執筆者、査読者、そして編集者が共通したチェックリスト項目とフローチャートを共有することで事前に確認することができるだけでなく、論文投稿者はチェックリストの22項目を把握して論文執筆ができるので、ランダム化比較試験の質の向上につながると考えられています。
まとめ
論文を執筆する前に必ず投稿先の雑誌の投稿規定、ICMJE統一投稿規定、およびその他のガイドラインと声明を熟読しましょう。そして執筆後の英文校正時には、論文がガイドラインに沿って執筆されており、不正行為に該当しないようデータなどが提供されているか、そして利益相反が開示されているかどうか必ず確認してから雑誌に投稿するようにしてください。