研究を実施するためには人・モノ・金が必要なのですが、きちんとした目的がなければどれも集まってきません。研究目的に沿って必要な人的リソース、研究環境、そして研究資金の分配を考えることになるからです。よく練られた研究計画の裏にはしっかりとした研究目的があります。そこで今回は、研究目的をどのように決めるのかについて説明してみたいと思います。
目的のない研究について
研究は、闇雲に手を動かしてデータを集めたり実験をしたりすれば結果がでる、などというものではありませんので、「目的のない研究」というのはそもそも存在しないはずです。
「有意差」がでたらOK?
しかし現実には、「データがあるからとにかくこれで解析してみて!」などと言われてよくわからないままデータとにらめっこしたりして、「有意差」がでたところで結果をまとめるといったプラクティスが横行しているのも事実です。
筆者はアメリカの大学に留学経験がありますが、研究を実施するためには最初に研究の背景、仮説、研究目的、研究方法、予想される結果などを記入するシートを記入してからでなければデータが出てこない仕組みでした。
ひるがえって日本の研究環境に目を向けてみると、もちろんきちんと手順を踏んで実施している研究室も多いですが、そうでない「出たとこ勝負」という研究が、残念ながら散見されます。そしてあまつさえ、論文中に目的が明確に記載されていないようなケースにさえ出くわします。
論文中に目的を書くべきところ
たいていの研究論文では、研究の目的は論文中のイントロダクション(緒言)部分の最終部分に明記されます。このことを意識するだけでも論文がピリっとしまりのあるものになりますので、こうしたことを意識してみるとよいかと思います。
そもそも緒言部分には、以下の様な論理構造が必要であることが多くの研究者・教育者によって提案されています。
- 既知の事実
- 未知の事実(これまでの研究で明らかにされてこなかったこと=フロンティア)
- 目的(どうやってフロンティアを開拓するのか)
こうした構造にすべきである、と認識することも論文執筆の一助になることでしょう。これから論文を書き始める方にはぜひ意識して頂ければと思います。
研究目的を明確に決める
さて、目的が重要であることはわかって頂けたと思います。ではどうしたら研究目的をしっかりと書くことができるでしょうか?
最も重要なポイントは、疑問が何なのかをはっきりさせることです。そしてその疑問はできるだけ構造化するようにすることが肝心です。
疑問の構造化とは?
どんな人達を対象とするのか(Participants)、どんな介入(Intervention)あるいは曝露因子(Exposure)があるとそうでない人達(Comparison/Control)と比較してどんなアウトカム(Outcome)の発生に違いがでるのか、の頭文字を取ってPECOの要素が必要である、ということがよく言われます。
これが基本骨格であり、イントロダクションで目的を明示的に記載するように述べましたが、このPECOの形でまとめるようにするとよい、というのがとても重要なポイントの1つなのです。
PECOの形を認識すると、それぞれの定義を論文中で配置していく必要がありますので、自然とmaterials and methodsの部分が埋まることになります。また、イントロダクションでわかっていることを最初にまとめるように書いたわけですが、具体的にどんなことを書けばよいかというと、
- Pという集団においてOの重要性
- EやIの重要性
について述べていけばよい、という整理をするとぐっと論文が書きやすくなります。このようにきちんとした構造が根底にあると英文校正にだしたときにも校正者に意図が伝わりやすくなるため、意図した文章になることが期待できるでしょう。
PECOの裏にある仮説
「きっとこうなるはずだ」、という結論的なものが仮説です。研究の目的、特に研究計画書や競争的研究費獲得に際しては重要な要素です。新しい事実を見つけ、それを社会に役立てることが研究の目的です。
研究をビルに例えるならば、倫理的な問題や、研究環境や人的資源が土台になります。そしてビルの高さを決めるのは仮説です。それだけ重要な仮説の部分がすっかりと抜け落ちた計画書、研究費獲得の申請書、論文は魅力が感じられることは残念ながらほとんどありません。
その仮説を得るのは知識や経験に裏打ちされますが、日頃から問題意識をいかに持つかが重要です。他の人には何てこと無い出来事から学ぶ人・学ばないで日々過ぎていく人との違いはまさにそこです。
まとめ
よい研究を実施するためには、しっかりとした目的を持たせることが重要であること、理解していただけたでしょうか?「しっかりとした目的」を持つための鍵は、解決すべき疑問を認識することと、日頃から問題意識を持つことでした。そして疑問をPECOで構造化する意識を持つとその後の流れはスムーズになることでしょう。