素晴らしい研究成果を挙げるためには研究目的を設定することが重要です。核となる研究目的をしっかりかためること、そして核となる研究目的に合う研究をどのように組み立てていけばよいのか、について解説したいと思います。
優れた研究目的を設定するために必要な要素
優れた研究目的を設定するためには、いかに優れた仮説を案出できるかにかかっています。そしてその仮説を構成する要素に分解する作業も必要です。このようにして目的を設定するための要素を揃えていきます。
仮説の設定
仮説がどのように生み出されるかといえば、日頃から疑問に思っていることやこれまでの知見から予想を立てることになります。
「答えがわかっているのなら調べる必要はないのではないか?」
そんな声が聞こえてくるかもしれませんが、誰かが証明したことがないことを事実として仮定して動いていることというのは実はたくさんあります。しかし本来はどんなに些細なことであっても直接的に答えが示されていない限りは証明する余地が残っています。
「わからないから調べるのではないですか?」
これもありがちな疑問です。確かにわからないから調べるわけですが、「結果を予想する」というのは実は重要なプロセスです。研究を行うのは、予想した結果が正しいかどうかだけでなく、その背景やメカニズムに対する考察の正しさも確かめることになります。
「予想したのと違っていたらどうするんですか?」
予想と違う結果であったということは立てた仮説が間違っていたことを意味するのかというと、そうとも限りません。どうして結果が予想と違っていたのかを考察することで違う可能性を検討するきっかけにもなります。事実そのような考察から新しい発見が生まれたことは珍しいことではありません。
評価項目の設定
一度仮説を思いついたら、何を最終的に評価するのか、具体化していく作業が必要になります。疑問を解決するためのフィールドとして、医学研究は基礎研究と臨床研究に分かれますが、そのどちらのフィールドを用いて仮説を証明するのかをまずは決めることになります。
基礎研究であれ臨床研究であれ、まずは「何かの条件Aに対して結果Bが導かれる」という命題の形に落とし込みます。A⇒Bに対する因果関係を示すことを意識した場合に、B⇒Aとなる関係を否定し、順行性にA⇒Bであることを示すことが必要です。そのためにはAとBを明確に定義することが重要です。
臨床研究ではさらに、以下の要素に分けることが一般的です。
- 研究対象集団(Participants)
- 介入(Intervention)あるいは曝露因子(Exposure)
- 比較対照(Comparison/Control)
- 結果(Outcome)
どのような対象集団を想定して、どのような集団からサンプルしてくるのか。実はこの部分が研究のフィールドを決める第一歩になります。先進国の高齢者を対象とした研究を想定しているのに、若い人しか住んでいない地域の住民コホートを使うのは正しい結論が得られるとは思えませんし、入院患者のデータ解析をするのに大学病院のデータしか集められなければ偏った集団になってしまうでしょう。
介入や曝露因子についても定義を明確に決める必要があります。
そして重要なのはアウトカムの設定です。例えば「死亡」は、厳然たる事実になるので誤分類が起こりにくく、ハードアウトカムと呼ばれます。それ以外にも代理アウトカム(サロゲート)という考え方があり、これにはあるバイオマーカーの上昇や画像所見、疾患の発症などというものが含まれます。ハードアウトカムは結果がぶれないのが利点ですが、数多く起こらないこともあるために研究として実施する場合にサンプル数がとても多くなることがあります。これに対してサロゲートアウトカムは、数を揃えることが比較的容易な一方、定義付けが曖昧だとバイアスを生み出す可能性があります。
まとめ
よい学術論文を書くためにはしっかりとした目的を持つことの重要性が認識できたでしょうか。さらに優れた研究目的のためには仮説を立てることが重要です。立てた仮説がいつも正しいとは限りませんが、仮説を立てるに至るまでにきちんと筋道を立てることは最終的に論文を書くときにも生きてきます。
筋道が整った研究は英文校正を行う際にも校正者に意図が伝わりやすいという事実があります。よい論文を作るための第一歩として研究目的の明確化・仮説の呈示を中心として組み立てていくことが重要です。