医学論文においては、著者に誰の名を連ねるかということと、その順番を決めることというのは論文投稿をする際の隠れた難関であることがしばしばあります。内容に同意していたにもかかわらず順番が気に入らないということでいざこざが起こったりすることもあり得るため、できるだけ論文執筆の段階である程度きめておくことが望ましいです。遅くとも英文校正に出す前には決まっているべきでしょう。今回は誰を著者に加えるのか、そしてその順番や役割についてまとめてみました。
1.適正な著者の選択
国際的に著者を決めるためのガイドラインが存在しており、基本的にはその原則に則って決めていくのが最も倫理的で公平な決め方と言えます。しかし現実には以下のような「本来はあってはならない著者」というのが存在します。
繰り返しますが、以下のような著者は国際的には許容されません。
- ゴーストオーサー:論文発表に相当の貢献をしたのに、研究自体への貢献とみなされず名前が載らない(利益相反などから名が伏せられるなど)
- ゲストオーサー:明確な貢献はないが、論文出版の可能性を高めるために列記される(ギフトオーサーシップ:研究との希薄な関係にのみ基づく)
では国際的なガイドラインには具体的にどのような形で著者と認定するべき条件が書かれているのでしょうか。
2.著者の資格条件
基本原則として、「著者リストは、各自の貢献を正確に反映してなければならない」(Graf, Wager, Bowman et al, 2007)というものがあります。国際医学編集者会議(ICMJE)はオーサーシップ(著者資格)について、以下の4つの基準をすべて満たす必要があるとしています。
- 研究の構想やデザイン、あるいは研究データの取得・分析・解釈に相当の貢献をした
- 重要な知見となる部分を起草した、あるいはそれに対して重要な修正を行なった
- 出版前の原稿に最終的な承認を与えた
- 研究のあらゆる側面に責任を負い、論文の正確性や整合性に疑義が生じた際は適切に調査し解決することに同意した
(ICMJE, 2017)
著者候補として名を連ねるならばどのような役割を負うのか、あらかじめ決めておくのがスマートです。
3.著者の数と並び順
平均的には5名ほど名を連ねることが多いと思われますが、雑誌の規定になければ何人でも載せることができます。そして、順番については、
- 筆頭著者(ファーストオーサーfirst author、第1筆者)
- 責任著者(コレスポンディングオーサーcorresponding author、連絡著者)
- 最終著者(ラストオーサーlast author、シニアオーサーsenior author)
の3か所があらかじめ決めておく必要のある著者です。
加えて相対的な貢献度から第2、第3著者の順番を埋めていくことが慣習的に行われています。というのも、引用されるときに最初の3名だけであとは「et al」で済まされてしまうことがあるためです。一般的には直属の指導者が第2著者になり、後に続く著者は貢献度の高さから順位付けられます。
最終的にはすべての著者の合意のもとで順番が確定します。
4.各著者の役割の報告
貢献の度合いに関わらず研究の指導教官を著者に含めることは慣例となっています。しかし、本来は指導教官が著しい貢献を果たし、執筆に関わり、出版に合意した場合だけ著者に含めることが許容されるべきです。いうまでもありませんが、上記の4つの基準は、1つや2つだけでなく、すべてを満たしている必要があります。指導教官だからといって、自動的に著者資格が与えられるわけではないのです。
各著者の役割はタイトルページ、謝辞、あるいは特別なセクションを設けて明示することを指定される場合があります。研究の計画・実施、研究デザイン、研究の実施、データ収集、解析、論文執筆、解釈と原稿へのコメントなどをイニシャルとともに示します。
そして、上記4つの条件を満たさないが論文作成に一定の貢献があったとみなされた場合(データの収集や分析、原稿へのコメントなど)には、謝辞(Acknowledgements)でその旨を示し、名前を載せることになります。
また、近年では研究グループの名前で複数の関係者をリストアップして掲載する場合があります。”Investigators”や”Collaborators”などと表現され、著者に準じた扱いで名前を載せるケースがあり、徐々に普及しつつあります。
5.まとめ
4つ目の著者基準はきわめて重要です。一度著者として名前が記載されると、自分が担当した部分だけでなく、論文全体の責任を負うことを意味します。共著者の1人が分析や解釈を誤ったり、剽窃などの論文不正に手を染めていたことが発覚したりした場合は、共著者たちもその責任を問われることになります。
逆に、4つのすべての基準を満たしていない限り、著者名の記載に同意することは絶対に避けたほうがよい、ということにもなります。