論文執筆の際、実は最も難しいといわれるセクションの1つが導入部、つまりintroductionと言われています。この部分では自分がどうして研究を行ったのか、理論的な背景を述べながら読者の興味をそそるような内容にする必要があります。
とはいえ奇をてらった書き方が求められているわけではなく、一定の手順、セオリーのようなものがあり、それに従って記載するだけで一定の質を担保できます。
今回の記事では、『はじめに(introduction)』をどのように記載するのかについて説明したいと思います。
1.『はじめに』で書く項目
冒頭でも述べたように、イントロ部分の役割は、なぜその研究を実施するに至ったのか、という経緯を説明することにあります。
「巨人の肩の上にのる矮人」(きょじんのかたのうえにのるわいじん、ラテン語: nani gigantum umeris insidentes)という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
これは、先人の積み重ねた発見に基づいて何かを発見することを指し、まさに科学の進歩というのは巨人の肩に乗った科学者が、次の世代の科学者を自分の肩に乗せながら進んできました。
何が言いたいかと言いますと、自分の行っている研究というのが、大きな学問体系のどの部分に位置するのかを明確にしながら述べていくことが大事である、ということです。
つまり、どこまでがわかっていてどこからが未知なのか、そしてそれを知ることによってどんないいことが待ち受けているのか、ということを述べればよいのです。
1)何が分かっているのか?(What is know)
まずは巨人の肩に乗ることが大事です。先人たちがどのように学問体系を積み上げてきたのかを説明します。
ここで重要なのは、あくまで自分が行っていることと直結することに絞って既知の事実を述べることです。
先行文献を調べるという地道な作業は、論文に反映されない内容も含んでいるため、自分が苦労して調べたことをついついたくさん載せたくなりますが、それは単なる自己満足に過ぎません。その説明を入れることにどんな意味があるのか、しっかり考えてから既知の内容を記載していきましょう。
2)何が分かっていいないのか?(What is not know)
わかっていないことを述べることは、つまりはフロンティアに立つ、ということを意味します。
巨人の肩の上に立って目的地を見据えた後、目的地と現在地のギャップを明らかにするのです。
この段階では、そのわかっていないことをどのようにして明らかにしようとしたのか、その概要を説明しましょう。
3)なぜ新たな研究を行おうと思ったのか?(Why we thought it necessary to carry out a new study.)
この部分はとても重要です。研究を行う必然性を説きます。これを聞いたら研究せずにはいられない、という内容にまで高められるとよいでしょう。
単純に、「できるからやりました」とか、「やれそうだからやりました」とか、「たまたま別のことをやっていたら結果がでてしまいました」といったことは、(現実にはままあるかもしれませんが)通常望ましくない記載です。
この研究を行うことで得られるメリットを強調するのです。
そこで、多くの研究でとられている方法が、「仮説を提唱」することです。
まだ結果が得られない段階ではどんな結末になるのかわからないのが本当のところですが、研究を実施するからにはある程度「あたり」はついていることが多いと思います。それを仮説という形にして文章に組み込むと読み手にとっても理解しやすい論文になるでしょう。
2.『はじめに』の最後に研究目的をはっきり書く
ここまででこれまで先人が敷いてきたレールの上を走りながら研究を行う必然性をしっかり説明してこれたらあとはそれほど難しいことはありません。
自分が描いた仮説が正しいことを証明する、という確固たる信念に基づいて研究を行えばよいのですから。
そして、イントロの最終部分では、研究の目的を明示することが重要です。
実は論文の中で一番重要だ、としている人も少なくないのがこの「イントロの最終段落」です。
事実、この部分を読むだけで研究の目的や筆者が立てた仮説がはっきりとわかる論文はよい論文であることが多く、肝の部分と言えるでしょう。
英文校正に出す前にこの部分がきちんと書けているかを再度確認することが重要だと考えています。
まとめ
いかがだったでしょうか。論文のイントロ部分は読者の興味を引くうえで非常に重要です。
やみくもに書くのではなく、きちんと順序だてて既知→未知→仮説→目的というフローに基づいてイントロ部分を記載してみるとよいでしょう。