症例報告は初めて論文を書く人達にとっては登竜門となりますし、研究・教育機関に所属していない臨床医にとって、貴重な学術発表の機会でもあります。
今回は、症例報告について説明したいと思います.
1.症例報告とは?
症例報告とは、診療から得られた新しい知識を普及させるための手段です。
周知とは異なる症状や所見、すでに知られている疾患の新しい治療方法や珍しい合併症、治療に対する異常な副反応などといったことを報告するのが症例報告です。
原著論文として何百、何千、時に何万もの症例データを集めて一般化するという臨床研究と異なり、特異的な症状、所見、経過などにフォーカスするというところが特徴です。
日ごろから症例報告を意識しておくと、珍しい所見や経過に遭遇したときに筆が進みますので、診療に違った彩りが加えられることは間違いありません。
2.症例報告が出版されにくい理由について
数多くの症例の臨床研究に比べて価値が劣ることは決してありませんが、一般的な結論を導きにくいという症例報告が元来孕む特性から、どうしても論文として出版されにくいのがもう一つの特徴といえるでしょう。
その論文が数多くの他の研究に引用される可能性の高いものが「出版」されやすいです。引用されることこそが論文の価値そのものとみなされることが多いからです。インパクトファクターはそもそも被引用回数で決まるからです。
また、学術雑誌が症例報告を載せるのはごく限られた件数なのに対して、取り組みやすさから症例報告を提出する数が多いからかもしれません。
そういった理由から症例報告が雑誌に採択される可能性が低いのです。
3.受理されやすい症例報告とは?
以下、よくある症例報告の特徴をまとめてみました。
- 珍しい所見
- 治療に対する有害な反応
- 他疾患と紛らわしい異常所見
- 新しい仮説の提唱
- 現行の理論、ガイドライン等に対する疑問
このような特徴を前面に押し出すことでエディターの心をつかめるかもしれません。
また、近年では症例報告に特化したジャーナルもありますので、確認しておくとよいでしょう。
4.症例報告の書き方のコツ
一般的な症例報告の構成は以下のようになっています。
- 序論
- 症例
- 患者について
- 患者の病歴
- 検診結果
- 病理テストおよびその他の検査結果
- 治療計画
- 治療計画後に予測される結果
- 実際の治療結果
- 考察
- 結論
このうちの考察が最も重要です。ジャーナル側が出版するに値する症例であるかどうかをここで判断しているからです。
序論で述べた内容をうまく受け継いで、この症例においてはどこに注目すべきなのかを明示したうえでその理由と、それによって提示される問題に重点をおいた書き方を心がけましょう。
5.プライバシー保護
患者さんのプライバシー保護の観点も重要です。名前や住所、生年月日や本人写真など、個人を一度に特定できるような情報を含まなくても、病歴だけでも個人情報とみなされますので、勝手に情報を使用することは避けるべきでしょう。
ご本人に丁寧に説明し、同意を得ることが重要です。
このため、日ごろから珍しい症例に出会ったとき、患者さんからの情報利用に関する承諾書のようなものを準備しておく場合もあります。(施設内や所属のポリシーに従いましょう)
まとめ
症例報告は多くの症例数に基づいた臨床研究と比べて格下に見られることがありますが、症例報告にしかできないことがあります。
あまりにも珍しく、数多くの症例をもって一般化することが極めて困難な疾患などでは、症例報告が最も高いエビデンスになることすらあります。
それは、その他の原著論文と同様、ピアレビューを基軸にしているからです。
しかし受理されにくいのも事実です。せめて投稿のときにはしっかりジャーナルの指定する体裁をしっかりと守って提出することが重要です。
英語で症例報告を提出する際には必ず英文校正にかけるようにしましょう。